2006年11月04日 19:04
六カ国協議はそもそも、日本の核武装を阻止するため、「北朝鮮の核開発は国際協力で阻止できますよ」というメッセージを日本に送るため、言わば日本を騙すために作られた宣伝機関に過ぎないのだ。
伊藤貫著『中国の核が世界を制す」によれば、2002年10月、ペリー元国防長官が江沢民に「北朝鮮の核ミサイル問題をこのまま放置すると、日本が自衛のための核武装を始めることになりかねない」とアドバイスし、ブッシュ・江沢民合意が成立、2003年8月27日から六ヶ国協議は始まった、という。
この事実は、アメリカの政界では公然の事実だったにもかかわらず、それを報じなかった日本のメディアや、外務省の国連大使、駐米大使らの不作為(無能?)は、厳しく追及されるべきである。
今回の北朝鮮の核実験がいくつか重大な問題がわかった。
第一に、「六カ国協議」という話し合いでは北朝鮮の核開発は阻止できないことや、中国を通じて北朝鮮に外交的圧力を加える手法には限
界があることが判明した。
第二に、このままだと、中国、北朝鮮、ロシア、パキスタン、インドという核武装国家に日本は取り囲まれることになる。
※中国は現在、移動式核ミサイルを数十発、日本に向けている。
第三に、もしここで日本が適正な軍事的対抗策(当面は船舶検査)を打ち出せなかった場合は、日本は世界の笑い者となり、アメリカも対日蔑視となる。
第四に、北朝鮮や中国のミサイル攻撃に対して「受動的ミサイル防衛システム」だけでは我が国を守れない。また、相当の報復が加えられることを敵に認識させて対日攻撃を躊躇させる抑止力も我が国は持っていない。言い替えれば、 北朝鮮の地下核実験は、日本の安全保障システムの構築にとって絶好の機会なのである。
つまり、六カ国協議という国際的な話し合いだけでなく、軍事的パワーによる解決を選択肢として考えざるを得ない状況に、日本は直面しているのである。この軍事的パワーには、もちろん、核武装も含まれている。
この核武装に関して、なんと朝日新聞が、日本の核武装を支持するインタビュー記事を掲載しているので、下記に転載した。また、産経の古森記者が、アメリカでは、日本の核武装に関してどのような議論が起っているのかをまとめた記事を書いていたので、あわせて紹介する。
なお、本日の産経新聞によれば、中国が北朝鮮の核武装を背後で支持していたことを告発する報告書をブッシュ政権がまとめたという。日本政府も、このような報告書を作成し、「アジアの安全保障を中国に任せていいのか。真に頼りになる国は日本だ」ということを国際社会に訴えるべきである。
麻生外相と、世耕補佐官の手腕に期待したい。
(引用)
核兵器 「帝国以後」のエマニュエル・トッド氏と対談
朝日2006年10月30日
今月はパリで行った対談を「風考計」の特別編でご紹介したい。相手は独特の視点で世界を読み解き、著書「帝国以後」などで広く知られるエマニュエル・トッド氏。鋭く米国や中国を批判する彼は、何と日本に「核武装」を勧めるのだった。刺激的な議論になったが、頭の体操だと思ってお読みいただきたい。
●トッド「偏在が恐怖、日本も保有を」 若宮「廃絶こそ国民共通の願い」
若宮 いま、北朝鮮の核が深刻な問題です。
トッド 北朝鮮の無軌道さは米国の攻撃的な政策の結果でしょう。一方、中国は北朝鮮をコントロールしうる立場にいる。つまり北朝鮮の異常な体制は、米国と中国の振る舞いあってこそです。
若宮 トッドさんは識字率の向上や出生率の低下から国民意識の変化を測り、ソ連の崩壊をいち早く予測しました。北朝鮮はどうでしょう。
トッド 正確な知識がないのでお答えできない。ただ、核兵器が実戦配備されるまでに崩壊するのでは……。
若宮 でも不気味です。
トッド 核兵器は偏在こそが怖い。広島、長崎の悲劇は米国だけが核を持っていたからで、米ソ冷戦期には使われなかった。インドとパキスタンは双方が核を持った時に和平のテーブルについた。中東が不安定なのはイスラエルだけに核があるからで、東アジアも中国だけでは安定しない。日本も持てばいい。
若宮 日本が、ですか。
トッド イランも日本も脅威に見舞われている地域の大国であり、核武装していない点でも同じだ。一定の条件の下で日本やイランが核を持てば世界はより安定する。
若宮 極めて刺激的な意見ですね。広島の原爆ドームを世界遺産にしたのは核廃絶への願いからです。核の拒絶は国民的なアイデンティティーで、日本に核武装の選択肢はありません。
トッド 私も日本ではまず広島を訪れた。国民感情はわかるが、世界の現実も直視すべきです。北朝鮮より大きな構造的難題は米国と中国という二つの不安定な巨大システム。著書「帝国以後」でも説明したが、米国は巨額の財政赤字を抱えて衰退しつつあるため、軍事力ですぐ戦争に訴えがちだ。それが日本の唯一の同盟国なのです。
若宮 確かにイラク戦争は米国の問題を露呈しました。
トッド 一方の中国は賃金の頭打ちや種々の社会的格差といった緊張を抱え、「反日」ナショナリズムで国民の不満を外に向ける。そんな国が日本の貿易パートナーなのですよ。
若宮 だから核を持てとは短絡的でしょう。
トッド 核兵器は安全のための避難所。核を持てば軍事同盟から解放され、戦争に巻き込まれる恐れはなくなる。ドゴール主義的な考えです。
若宮 でも、核を持てば日米同盟が壊れるだけでなく、中国も警戒を強めてアジアは不安になります。
トッド 日本やドイツの家族構造やイデオロギーは平等原則になく、農民や上流階級に顕著なのは、長男による男系相続が基本ということ。兄弟間と同様に社会的な序列意識も根強い。フランスやロシア、中国、アラブ世界などとは違う。第2次大戦で日独は世界の長男になろうとして失敗し、戦後の日本は米国の弟で満足している。中国やフランスのように同列の兄弟になることにおびえがある。広島によって刻まれた国民的アイデンティティーは、平等な世界の自由さに対するおびえを隠す道具になっている。
若宮 確かに日本は負けた相手の米国に従順でした。一方、米国に救われたフランスには米国への対抗心が強く、イラク戦争でも反対の急先鋒(きゅうせんぽう)でした。「恩人」によく逆らえますね。
トッド ただの反逆ではない。フランスとアングロサクソンは中世以来、競合関係にありますから。フランスが核を持つ最大の理由は、何度も侵略されてきたこと。地政学的に危うい立場を一気に解決するのが核だった。
●トッド「過去にとらわれすぎるな」 若宮「日本の自制でアジア均衡」
若宮 パリの街にはドゴールやチャーチルの像がそびえてますが、日本では東条英機らの靖国神社合祀(ごうし)で周辺国に激しくたたかれる。日本が戦争のトラウマを捨てたら、アジアは非常に警戒する。我々は核兵器をつくる経済力も技術もあるけれど、自制によって均衡が保たれてきた。
トッド 第2次大戦の記憶と共に何千年も生きてはいけない。欧州でもユダヤ人虐殺の贖罪(しょくざい)意識が大きすぎるため、パレスチナ民族の窮状を放置しがちで、中東でイニシアチブをとりにくい。日本も戦争への贖罪意識が強く、技術・経済的にもリーダー国なのに世界に責任を果たせないでいる。過去を引き合いに出しての「道徳的立場」は、真に道徳的とはいいがたい。
若宮 「非核」を売りにする戦略思考の欠如こそが問題なのです。日本で「過去にとらわれるな」と言う人たちはいまだ過去を正当化しがち。日本の核武装論者に日米同盟の堅持論者が多いのもトッドさんとは違う点です。
トッド 小泉政権で印象深かったのは「気晴らし・面白半分のナショナリズム」。靖国参拝や、どう見ても二次的な問題である島へのこだわりです。実は米国に完全に服従していることを隠す「にせナショナリズム」ですよ。
若宮 面白い見方ですね。
トッド 日本はまず、世界とどんな関係を築いていくのか考えないと。なるほど日本が現在のイデオロギーの下で核兵器を持つのは時期尚早でしょう。中国や米国との間で大きな問題が起きてくる。だが、日本が紛争に巻き込まれないため、また米国の攻撃性から逃れるために核を持つのなら、中国の対応はいささか異なってくる。
若宮 唯一の被爆国、しかもNPT(核不拡散条約)の優等生が核を持つと言い出せば、歯止めがなくなる。
トッド 核を保有する大国が地域に二つもあれば、地域のすべての国に「核戦争は馬鹿らしい」と思わせられる。
若宮 EU(欧州連合)のような枠組みがないアジアや中東ではどうでしょう。さらに拡散し、ハプニングや流出による核使用の危険性が増えます。国際テロ組織に渡ったら均衡どころではない。
トッド 核拡散が本当に怖いなら、まず米国を落ち着かせないと。日本など世界の多くの人々は米国を「好戦的な国」と考えたくない。フランス政府も昨年はイランの核疑惑を深刻に見て、米国に従うそぶりを見せた。でも米国と申し合わせたイスラエルのレバノン侵攻でまた一変しました。米国は欧州の同盟国をイランとの敵対に引き込もうとしている。欧州と同様に石油を中東に依存する日本も大変ですが、国益に反してまで米国についていきますか。
若宮 日本のイランへの石油依存度は相当だし、歴史的な関係も深い。イラクの始末もついていないのにイランと戦争を始めたらどうなるか。イラクのときのように戦争支持とはいかないでしょう。
トッド きょう一番のニュースだ(笑い)。北朝鮮と違い、イスラム革命を抜け出たイランは日本と並んで古い非西洋文明を代表する国。民主主義とは言えないが、討論の伝統もある。選挙はずっと実施されており、多元主義も根づいている。あの大統領の狂信的なイメージは本質的な問題ではない。
若宮 イラン・イラク戦争のとき日本は双方と対話を保ち、パイプ役で努力した。その主役は安倍首相の父、安倍晋太郎外相でした。
トッド 私は中道左派で、満足に兵役も務めなかった反軍主義者。核の狂信的愛好者ではない。でも本当の話、核保有問題は緊急を要する。
若宮 核均衡が成り立つのは、核を使ったらおしまいだから。人類史上で原爆投下の例は日本にしかなく、その悲惨さを伝える責務がある。仮に核を勧められても持たないという「不思議な国」が一つくらいあってもいい。
トッド その考え方は興味深いが、核攻撃を受けた国が核を保有すれば、核についての本格論議が始まる。大きな転機となります。
●トッド「北方領土問題、高い視点から」
若宮 ところでトッドさんはロシアを重視し、日ロ関係を良くすれば米国や中国への牽制(けんせい)になると書いてます。
トッド 私はずっとそう言ってきた。ロシアは日本の戦略的重要性を完全に理解している。国際政治において強国は常に均衡を求める。
若宮 でも、日ソ国交回復から50年たっても北方領土問題が片づかず、戦略的な関係を築けません。
トッド ロシアは1905年の敗北を忘れず、日本は第2次大戦末期のソ連参戦を許していない。でも仏独は互いに殺し合ってきたのに、現在の関係は素晴らしい。独ロや日米の関係もそうです。日ロもそうなれるはずだ。
若宮 日本は北方四島を全部還せと言い、ロシアは二つならばと譲らない。
トッド では、三つで手を打ったらどうか(笑い)。
若宮 そう簡単にはいきませんが、互いに発想転換も必要ですね。ロシアは中国との国境紛争を「五分五分」の妥協で片づけました。
トッド 解決のカギは仲良くしたいという意思があるかどうかです。北仏ノルマンディー沖にも英国がフランスから分捕った島があるが、問題になっていない。地中海にあるフランスのコルシカ島は元々イタリアだったが、誰も返せとは言わない。
若宮 日本と韓国の間にはもっと小さな島があり……。
トッド それこそ「偽りのナショナリズム」。国益の本質とは大して関係ないでしょう。この種の紛争解決にはお互いがより高い視点に立つこと。つまり共同のプロジェクトを立ち上げる。北方領土でも何かやればいい。
若宮 トッドさんが平和主義者だということが分かりました(笑い)。
◇
◆「非核」こそ武器に 私のパリ訪問は、日ソ国交回復50周年の催しや日米シンポジウムに出席のため、モスクワとワシントンを訪れる道中だった。トッド氏とは3年近く前に東京で会って以来だが、緊張を強いられた2時間。「皮肉屋のフランス人」を自称するだけに、あえて挑発してくれたのかも知れな
い。
核には格別に反感が強い日本だが、かつてソ連や中国に対抗しようと、首相が核に意欲をのぞかせた時代があった。岸信介、池田勇人、そして
最も米国を驚かせたのは佐藤栄作氏だった。
中国が核実験をした64年、首相となった佐藤氏はライシャワー駐日大使に会うと核武装への意欲を語り、大統領と話し合いたいと伝えた。大
使は本国への報告で「容易ならない危険性」を指摘し、指導・教育の必要性があるとコメントをつけた(中島信吾氏の「戦後日本の防衛政策」から)。何よりも核の拡散を恐れたのだ。
米国が日本に「核の傘」の提供を確約し、日米安保体制を固めていったのはそんな経緯からだ。やがて核不拡散条約(NPT)が生まれ、日本
は米国の強い後押しで76年に批准。95年には条約の無期限延長にも応じた。唯一の被爆国として「非核」の道を鮮明にしたのだった。
ところがインド、パキスタンだけでなく、北朝鮮までが核実験。有力政治家が相次いで核保有の検討論を口にしたのもその動揺からだ。根強いナショナリズムも底流にうかがえる。
それでも変わらないのは、米国政府がそれを認めないということ。日本が核を持ちたいなら、米国と事を構える覚悟がいるのだ。米国と距離を置くゆえに核の勧めを説くトッド氏は、実はその矛盾を突いている。
一方で、「非核」の日本が問われているのは、果たして政府が胸を張ってそれを世界に訴え、国際政治のテコに使っているか、ということだ。
日本がイラク戦争を支持したとき、「もっと毅然(きぜん)としたら」と政府の幹部にただしたら、「フランスみたいに核を持ってないからねえ」と答えたのを思い出す。
私がトッド氏に反論しながら、どこか耳が痛い気がしたのは、そんな記憶のせいに違いない。
◇
◆エマニュエル・トッド
フランスの人類・歴史学者。パリ政治学院卒。英ケンブリッジ大学で歴史学の博士号。「最後の陥落」(76年)では出生率の推移などからソ
連崩壊を早々と予測。「第三惑星」(83年)や「移民の運命」(94年)に続き、米国の病理と一極世界の限界を示す「帝国以後」(02年)など話題作多数。人口動態や識字率などを根拠に「常識破り」の仮説と世界観で問題提起を続けている。55歳。作家ポール・ニザンの孫でもある。
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/column/i/33/index.html
第33回 「日本に核武装」― 米国から出た初めての奨励論
古森義久
北朝鮮の核兵器実験は文字どおり全世界を揺るがせた。至近距離に位置する日本への衝撃は言わずもがな、である。金正日総書記のこの大冒険で世界の核兵器管理態勢が変わり、東アジアの安全保障態勢も大きく変わっていくだろう。その意味では2006年10月9日の北朝鮮の核実験は歴史的な転換点の一つとして国際政治史に刻まれるかもしれない。
北朝鮮の核実験がもたらす大きな変化の一つは、他の多くの主権国家にとって、核兵器の保有という行為がより近く、より容易な作業として映るようになることだろう。あれほど貧しく、あれほど孤立した小国の北朝鮮が、あれほど多くの国から反対されながらも核兵器を開発できるならば、自国が同様にしても決しておかしくない、という考え方も全世界かなりの数の国家で強まるであろう。核武装の敷居が低くなったということである。
この面で北朝鮮核実験の余波として、いま国際的に語られるようになったのは「日本の核武装論」である。北朝鮮が核兵器を公然と保有するようになれば、やがては日本も核武装を目指す、という主張である。この主張は実はもう珍しくはない。なにも今回に限った話ではないのだ。
今までの「日本核武装論」は「オオカミがくる」式の警告
北朝鮮の核武装が国際的な懸念の対象となったのは1990年代のはじめだった。その結果、米国と北朝鮮との間で1994年に米朝核合意枠組みとい
う協定が調印された。この協定は二国間の交渉と合意の産物だった。今の北朝鮮がしきりに求める二国間交渉の結果だったのだ。
この協定の結果、北朝鮮は核兵器開発に必要なプルトニウムの軍事転用を全面的に停止し、米国側がその報償として原子力軽水炉2基を北朝鮮
のために建設して供与する、しかもその間に重油や食糧までを提供するという約束が交わされた。
しかし北朝鮮は協定のサインの時期からひそかにウラン濃縮での核兵器開発を続け、全世界を完全にだましていたのだ。だから今更「米国は北朝鮮との二国間交渉を」と主張する意見には説得力はない。
「北朝鮮が核兵器を持つと、日本も核武装に走る!?」――という予測は、だから1990年代からあったのである。しかしこの「予測」は一貫して、「オオカミがくる」式の警告であり、カードだった。日本の核武装というのは決してあってはならないこと、危険なことであり、そんな状態を生まないためにも北朝鮮の核武装は許してはならない、という趣旨だった。
しかもその「オオカミ」は日本の政府の非核政策や国民の反核感情からみれば、絶対にありえない展望であるのに、国外の自称専門家が勝手にそんなシナリオを描くという場合が多かった。
「日本の核武装」という警告は米国から発せられ、中国に向かってぶつけられることが多かった。日本が核兵器を持つという事態は中国にとって最も忌避する可能性だから、その原因となる北朝鮮の核武装を中国が阻止すべきだ、という理屈である。肝心の北朝鮮に対しても、この「日本の核武装カード」は使われることがあった。北朝鮮が核を持てば、最大の敵の日本も核を持つことになるから、核武装をやめておけ、という説得だった。だが北朝鮮に対するこのカードはまったく効果がないことが判明したわけだ。
なによりも米国が日本の核武装に反対だった
米国の自称他称の日本専門家の間でも「日本の核武装論」は長年、ちらほらと語られてきた。日本側にそんな動きはツユほどもないのに、タメにする議論としてそうした主張を打ち出す人も存在した。どうもそんな部類に属するといえる典型例は、民主党系リベラルのアジア研究者セリグ・ハリソン氏だった。「日本には自主的な核武装を求める危険な動きがある」という式の主張をときおり発表してきた人物で、私自身も「日本のどこにそんな動きがあるのか」と反論した経験が何度もある。
そもそも日本の核武装論がこれまでまともな議論たりえなかった理由の一つは、肝心の米国が日本のそんな動きには絶対に反対するという大前提があるからである。米国が主導した核拡散防止体制は核武装の国家を現在以上には増やさないということが大原則である。この体制は核拡散防止条約(NPT)によって支えられてきた。日本ももちろん署名国である。この国際条約に加わった非核の国は核武装をしないことを誓っているわけだ。
米国はこのNPTの最大の推進国であり、日本に対しては日米安保条約に基づく二国間同盟で「核の抑止力」を提供している。つまり日本の防衛のための「核のカサ」を保証しているのだ。その代わり日本は独自の核は持たないということが相互の了解である。
NYタイムズに掲載された政策提言としての「日本核武装論」
さて前置きが長くなった。
以上のような背景から日本核武装論というのは、二重三重にバーチャル(擬似)の要素が強い議論だったことが分かるだろう。今回の北朝鮮の核実験の直後にドッと出た「日本も核武装へ」という議論も、ほぼすべてその範ちゅうのようである。
しかしただ一つ、例外があった。
ブッシュ政権で大統領補佐官を務めたデービッド・フラム氏がニューヨーク・タイムズ10月10日付に発表した寄稿論文での主張である。フラム氏はこの論文で北朝鮮とその背後にいる中国を厳しく非難していた。北朝鮮が米国をはじめ国際社会をだまして、核実験に踏み切り、しかも中国はその冒険を阻止できる立場にあるのに止めなかった、と糾弾している。だから米国は北朝鮮と中国にそんな危険な挑発行動への代償を払わせるために一連の断固とした措置をとるべきだ、と主張している。
フラム氏はそのなかで日本について次のように述べていた。
「米国は日本に対しNPTを脱退し、独自の核抑止力を築くことを奨励せよ。第二次世界大戦はもうずっと昔に終わったのだ。現在の民主主義の日本が、台頭する中国に対してなお罪の負担を抱えているとするバカげた、見せかけはもうやめるときだ。核武装した日本は中国と北朝鮮が最も恐れる存在である」。
「日本の核武装は中国と北朝鮮への懲罰となるだけでなく、イランに核武装を思いとどまらせるという米国の目標にも合致する。日本の核武装の奨励は、他の無法国家がその地域の核の均衡を崩そうとする場合、米国とその友好諸国がその試みを積極果敢に正そうとすることをイランに知らしめることになる。米国はイスラエルの核攻撃能力を高めることもできるのだ」。
大胆だが明快な主張である。今の米国ではもちろん超少数派の意見でもある。ブッシュ政権にも日本に核武装を促すという気配はツユほどもない。だがそれでもこうした政策提言が初めて堂々と出てきたことは注視せざるをえない。
日本が信頼できる同盟国だからこそできる議論
この論文の筆者のフラム氏は2001年から2002年まで第一期ブッシュ政権で大統領補佐官として働いた。主要任務は大統領の経済関連の演説草稿を書くことだった。同氏は本来はジャーナリストだが、ハーバード法科大学院卒の弁護士でもあり、共和党系保守の活動家として、国家安全保障の領域でも研究や著作を活発に重ねてきた。現在はワシントンの大手研究機関「アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート」(AEI)の研究員である。要するに今、政権を握る共和党保守派の人物なのである。
フラム氏のこの論文は「相互確証撹乱」と題され、副題は「話し合いはもう十分。北朝鮮と中国に代償を払わせよう」とされていた。
種々の公的合意を破って核武装に走る北朝鮮と、その動きを知りながら止めようとしない中国に対して、もう話し合いではなく、実際の報復や制裁、懲罰の行動によって応じよう、という主張である。
日本に関する同氏の主張で注目されるのは、米国にとって日本は核兵器開発を促せるほど信頼できる同盟国だとみなしている点であろう。米国からみて日本が敵に回りかねない不確定、不透明の国家であれば、そんな国の核武装を奨励するはずがない。
フラム氏はその他に以下のような主張をも述べていた。
「米国にとって最も危険な敵の核兵器取得が、米国にとって最も頼りになる同盟国の核兵器取得という結果を招くことを北朝鮮や中国に知らしめるべきだ」。
「今後の米国の戦略目標は、第一は北朝鮮の核の脅威を受ける日本と韓国という同盟国の安全を強化すること、第二は北朝鮮に核武装への暴走の代償を十二分に払わせ、イランへの警告とすること、第三は中国に懲罰を加えること、である」。
「日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールをNATO(北大西洋条約機構)に招き入れる。NATOはいま域外諸国の加盟を求めており、そうした加盟は中国への大きな抑止となる」。
「日本や台湾のミサイル防衛を大強化するとともに、北朝鮮への人道援助を全面停止する。韓国にも北への援助の停止を求める」。
以上、強硬な対応である。日本に核武装を奨励するという部分は現在のブッシュ政権のグローバルな核拡散防止の政策とは明らかに衝突する。だがその一方、一連の政策提言ではブッシュ政権の本音をちらほらと反映していることも否めない。
しかし初めて米国の識者、しかも現政権にきわめて近い人物から大手新聞のニューヨーク・タイムズという主要舞台で「日本に核武装の奨励を!」という主張が出たこと自体は、米国の新たな戦略思考のうねりをも感じさせる。少なくともこれまでの「オオカミがくる」式の日本核武装論とは根本から質の異なる議論であることを理解しておくべきだろう。
中国、北朝鮮の核武装黙認 米報告書指摘
【ワシントン=古森義久】米国議会の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」が31日に公表した2006年度の年次報告書が中国はまだ北朝鮮の核兵器など大量破壊兵器の開発や拡散を支援あるいは黙認していると指摘したことに中国側が反発し、米中間の新たな対立を生む形となった。
同報告書は米国の政府機関の情報や専門家の証言を基に中国の軍事、政治、経済などの活動の実態とその米国の安全保障への意味を詳述している。とくに注目されるのは「中国の大量破壊兵器拡散と北朝鮮の核活動への関与」という章で、中国は(1)北朝鮮の10月の核実験を含む核兵器とミサイルの活動を停止させるための圧力行使を拒んだ(2)その圧力としては北への経済援助の停止、貿易の制限、北の非合法製品の密輸入の黙認打ち切りなどが実行可能だった(3)本音としては核武装した北朝鮮と共存できると考えている(4)最近まで中国政府関連企業を通じて北朝鮮に弾道ミサイル技術を供与していた(5)最近まで北にパキスタン人のカーン博士を通じて核兵器の技術を供与していた形跡がある-ことなどを指摘した。
中国は公式には北朝鮮の核兵器保有への反対を言明し、北への不快感を表明している。しかし実際には中国は北の核武装を黙認するか、あるいは支援することを証する具体的事例が同報告書では明示された。だが中国政府報道官は米側の指摘を全面否定し、米側の今回の発表を「政治的プロパガンダ」と断じた。
同報告書はまた中国の近年の大幅な軍拡について「当面は台湾の軍事攻略能力の保持を目指してはいるが、台湾を越えて、東アジア全域での覇権確立をも目標にしているとみられる」と述べ、台湾有事については「中国軍の台湾攻略の軍事能力が完全に備わるのが08年だが、米国が台湾有事に介入して、中国軍を後退させる能力を確立するのが15年とみられるため、米国・台湾側には08年から15年までがきわめて弱体な防衛態勢となるという懸念が深い」と指摘した。
同報告書は日中関係について中国側が日本の首相の靖国参拝を日中首脳会談に勝手に結びつけ、日本側の弱点である靖国問題や歴史認識問題に「外交ハイライトをあえて当てて緊張を高めた」と述べている。 (産経新聞) - 11月2日8時0分更
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